IPSA IDEA

Sensazioni

IPSA IDEA

写真よりもリアルな鉛筆画

作者は、イタリア人アーティストのDiego Fazio氏。
鉛筆だけを用い、1点に200時間以上もかけながら、モノクロの作品を描き続けている。
「色を使うよりも鉛筆の陰影だけで描くモノクロの世界の方が訴えかける力がある」。
感情までも豊かに込められた作品は、写真以上にリアルに、ダイレクトに迫ってくる。

陰影_Diegokoi

陰影が宿す生命力

陰影が宿す生命力

Diego Fazio氏が鉛筆画を描き始めてから、まだ7年ほどに過ぎない。だが、ハイパーリアリズムとも称賛される彼の作品はそのことが信じられないほど熟練したクラフツマンシップを感じさせる。「家にあった小さな池からすべてが始まりました。新しい金魚が欲しくて買いに行った先で鯉にめぐり会ったんです。その鯉がとても美しくて魅力的だったので、すぐに一匹手に入れました」。それから鯉について調べ、中国の伝説を知る。「中国の言い伝えに魅了され、鯉が滝を登るように、私もアートをやりたいと思ったのです」。素晴らしい何かをなしたいと志を抱くこと、逆境に直面しても恐れない勇気の象徴でもあるその名を、アーティスト名に取り入れた。アートの道を進み続けるモチベーションと強さを失わないように。

「鯉をモチーフに絵を描いているうちに、タトゥーに多く用いられていることを知りました。それから、日本のタトゥー業界のもの、例えば漢字や龍なども描くようになりました。ある日、鉛筆だけで姉妹の絵を描いてみたら驚くほど良くできて。そのとき、ひらめくようにこれが自分の道なんだと確信したのです」。そうしてさまざまなモチーフを描き始めると、色を使うよりも鉛筆の陰影だけで描くモノクロの世界の方が訴えかける力があることを、ますます強く認識するようになったのだという。「最初は趣味のような感じで自分用に小さな絵を描いていましたが、大きな作品をネットで公開したら、多くの人に気に入ってもらえた」。周りの反響にも後押しされ、この道で続けていこうと決意する。

Genesi

感情表現への執念

感情表現への執念

「映画もカラーよりモノクロが好き」だという彼は、「カラーだと色々な色に気をとられてしまう。モノクロの方が直接的。だからこそ観客に、よりダイレクトに感情を伝えられると思っています」と続ける。人の感情を表現するために、顔の中心部分である目と口を重要視する。目と口を強調して描く一方で他の部分をぼかしたり、目を閉じている場合は口や唇を中心に描いたり。「一番豊かに感情を宿すパーツだと思っているので、特に意識しています」。陰影の繊細なラインで描き出される印象的な目や口は、しなやかな美しさを宿して観る者の魂を揺さぶる。精緻な鉛筆の線を幾重にも重ねる独自のテクニックはさらに磨かれて、彼の作品に写真以上のリアルさをもたらし、情緒さえも宿す力強さを生み出している。

Occhio

自分のこだわりで選ぶ

自分のこだわりで選ぶ

作品を見ていると、一見人(女性)が多いようにも感じるが、彼のモチーフ選びはそれだけでは語れない。「作品に取りかかるにあたって、まずどのようなテーマを使うかを、映画を観たり、音楽を聴いたりして日常生活の中から掴もうとします。何を扱いたいのかが決まったら、そのテーマに近づくにはどうしたらいいか考えます。その後一枚の写真を撮ります。それを元に、実際の絵を描いていきます」。ときには何ヶ月もテーマが見つからないこともある。しかし基準は明確で、自分にとって印象深いもの、自分にとってとても大切なものだと感じたときだ。「本当に心に響いたものが見つかると、“描くべきだ!”と体全体で感じるのです」だからこそ、女性を描いた絵のほとんどは一番身近で大事な人たち、妻や親戚なのだという。「美しさを表現しているというよりも、近しい人たちを描いているというのが真実。彼女たちのことはとても良く知っているので、秘めている感情をより深く表現できるから」。

Implosione

作品には200時間をもかけることもあるが、「アトリエの窓からはいつも同じ景色が見えるし、好きな音楽もかけられるので、とても集中して描くことができています。内心的にもリラックスできる、私の大切な場所です。鉛筆はいつも同じスイスのCaran d'Ache(カランダッシュ)というメーカーのものを使っています。とても使いやすくてお気に入りなんです」と笑う。

Implosione

アトリエ

フェロレート・アンティーコの街並

美はとてもパーソナルなもの

美はとてもパーソナルなもの

「“美”はとても個人的、主観的なものだと思っています。それぞれが美しさの基準というものを持っている。そして美しさとは心の中に訴えかけてくるもの。そのひとが何に惹き付けられるかによって美しさは変わる。自分が素敵だと思う特徴でも、別の人は違うことを思うかもしれない」。

モノクロの情景、その深い陰影に彩られた世界はときに、色のある世界よりも雄弁に物語る。鉛筆画に魅せられたアーティストが長い時間をかけて描くのは、自分にとって大切なものだけ。
リアリズムを追求しながら、表面的ではない、内面の感情や本来の美しさを浮き彫りにする。そこには精緻なテクニックによって鮮やかに紡がれる、唯一無二の価値がある。
普段の生活のなかにインスパイアされるものがある、と信じる彼が、今後何を見つけ、選び出してテーマとして描いていくか楽しみだし、そのモノクロの世界は、私たちにとって本当の美しさとは何かを問いかけ続けるはずだ。

Riflesso

Profile

Profile

Diego Fazio / DiegoKoi

1989年、イタリア カラブリア州カタンツァーロ県の町、ラメーツィア・テルメ生まれ。独学でアートを学ぶ。鯉が滝を登って龍へと変貌を遂げる中国の“登竜門”伝説に感銘を受け、アーティスト名に“Koi”の名を含める。タトゥーアーティストを経て鉛筆画アーティストへ。モノクロの作品は地元から徐々に人気が高まる。2011年のアートイベントNonfermartiにてAudience Award Best Artist NonFermarti 2011とAward painting section NonFermarti 2011を受賞、より広く知られるように。その後、イタリアで最も権威あるアワードの一つ、ミラノのCairo Awardでもファイナリストにノミネートされるなど、高い評価を得ている。2013年には初の海外エキシビジョンをシンガポールで開催。そのほか、国内外で数々のエキシビジョンやチャリティーオークションに参加している。