IPSA IDEA イプサ イデア 08 シンプル

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始めからシンプルではなかった

イプサのフィロソフィーと共鳴する、いま気になる人を紹介する2018年のIPSA IDEA。
今回は「宇宙の建築家」とも呼ばれる“ミウラ折り”の考案者、三浦公亮さんにフォーカス。

“ミウラ折り”がどのようなものかご存じでしょうか。名前を知らなくても、実は身近なものから宇宙空間でも活用されている構造です。たとえば、小さく畳まれた紙を一気に広げて見られるタイプの地図や、缶コーヒーの強度を上げるために施されている菱形模様をご覧になったことがあるのでは。宇宙では人工衛星のソーラーパネルなど重要な役割の一部に用いられています。2次元、3次元のものをコンパクトに折り畳む、その設計がさまざまに役立てられています。
ミウラ折りを開いたときに現れる、平行四辺形の規則的な連なりと凹凸。できあがったものをみると美しい造形となって表われます。でも、これは研究・実験を積み重ね試行錯誤の末にたどりついた、理由のある構造。ひとつのことに情熱を注いだ結果のシンプル、ということなのです。
美しさにたどり着くまでの探求心は、イプサの商品開発などにも通じる部分です。

(写真は、ミウラ折りキットを使って折った紙とリップスティック)
Photography (Still life): Asuka Katagiri

宇宙にのめりこむ

三浦さんが、ミウラ折りにつながる宇宙構造工学の道をどのように歩まれたのか、幼少期にさかのぼってお話を伺いました。

「最初は飛行機少年でした。その時代の男の子の多くがそうだった。今の子供がロケットに惹かれるように。」
飛行機に憧れ、もっと高度な研究を求めて戦後コロンビア大学へ。さらに最先端の現場を知るために当時入ることも難しかったNASAへの道を切り拓いていきます。ほどなく情熱と研究の成果が評価され、宇宙をステージにしてロケットや人工衛星の構造の設計に携わるようになったそう。
宇宙空間で大きく広げなくてはいけないソーラーパネルのようなものも、ロケットで運ぶにはとにかく小さく軽くコンパクトに畳む必要がある。
NASAで偶然、師の吉村慶丸先生が発表された「円筒をつぶすと折り紙形となる」論文に出会いました。それを逆用することで2次元、3次元のものを「小さく畳む」という技術の誕生につながりました。

(写真は、ミウラ折りで折った紙の展開とデザイニング フェイスカラーパレット)
Photography (Still life): Asuka Katagiri

気づくチカラ

紙をくしゃくしゃにして捨てたことはあっても、それを開いてそこに法則性があると気づいたひとはどれくらいいるのでしょう。
履き古したジーンズにできたシワがどんなカタチをしているか、つぶさに観察したひとは。
世界的名画モナリザを前に、その微笑ではなく、重ねた手の袖口のクシュッとした部分がどんな折れ方をしているかを見ているひとは。
M.C.Escherのだまし絵を見て「これはきれいに折れる」と考えるひとは。

飛行機やロケットの壊れない機体をつくるためには、逆に「どうしたら壊れるか」を知る必要がある。そのため三浦さんは、機体のつぶれかたを日々考えていたそう。その時、見たものをすべて自分の研究の糧にしていたといいます。
だからこそ、なにげないように見える、クシャッとつぶした紙にできた模様からも、ミウラ折りにつながる発見があった。
ひとつのことと向き合う姿勢。周りのいろんなことを取り入れながら自分に生かしていく柔軟さ、気づくチカラをイプサも大切にしています。

(写真は、折り目を観察した紙の再現とターゲットエフェクト アドバンスト S)
Photography (Still life): Asuka Katagiri

見つけた答えは自然のなかにも

「折りの交点の基本は、山折りと谷折りが3と1か、1と3。」必ず紙が折れる時の折り目の数というのは決まっている、と三浦さん。わかってからみると自然のなかに同じ構造のものがある、とのこと。それは例えば、葉を広げる前の木の芽の状態や昆虫の羽が畳まれている状態も。

「部分的にみると、まさに山折と谷折りで昆虫の羽。葉っぱも明らかにそうですね。葉っぱも太陽発電衛星と同じように、早く太陽光を欲しいから広げる。」
無駄なくスピーディーに、小さく畳んだものを大きく広げる構造を、植物も昆虫も自然に備えている、と。
「自然の形というか、我々が作るのは、自然の法則を利用した形ですよね。」

自然のなかに同じ答えを見つけて敬意をはらう。ひとも自然の一部と考えているイプサも同じ気持ちです。

(福田繁雄氏デザインによる、1990年 松屋銀座 デザインギャラリーでの展覧会パンフレットとアイリシェイパー)
Photography (Still life): Asuka Katagiri

いたずらをする

三浦さんへのインタビューのなかで心に留まったのが「いろいろいたずらをする」という言葉。ユニークな言い回しのなかに研究に向き合う心の持ちようをうかがい知ることができたような気がします。
それは、遊び心をもって取り組むことだったり、真正面からというよりは少し視点をズラして自分らしく考えることだったり、子どもが興味のあることに夢中になっていろいろ試しているような様子だったり。
三浦さんご自身も「考えているのはちっとも苦しくはない」とおっしゃるとおり、無心で答えへの道を歩まれてきたことを感じます。

自分の考えを、常識に縛られることなく自由に広げて、さまざまにトライする。それが誰も到達できない新しい場所にたどり着くための発想力なのかもしれません。

(写真は、3次元で表現したミウラ折りの構造とME)
Photography (Still life): Asuka Katagiri

美しいから、答えだ

「やっぱり神は単純さを好まれると言いますよね。できたらみんな単純に作りたいですよね。」これはシンプルについてお聞きしたときの三浦さんの言葉。
さらに美しさについて伺うと
「私はアーティストでもなんでもないけど、単純、構成が単純なこと。
美は複雑だから簡単には言えないけど、ミウラ折りにたどり着いたこの形はけっこう美しいと思う。答えだ、という確かさはありますよね。」
と話してくださいました。

答えを探し続けたひとにはわかる、究めたところにあるものだけがもつ美しさ。
それはイプサがひとりひとりのなかに見つけたいものと同じです。

(写真は、缶コーヒーの模型とME アルティメイト)
Photography (Still life): Asuka Katagiri

Profile 三浦 公亮 (みうら こうりょう)

東京大学工学部卒業。 東京大学宇宙航空研究所、文部科学省宇宙科学研究所で宇宙構造工学を研究。
人工衛星・惑星の開発設計に関り、新しい宇宙構造物の発明と宇宙での構築を実現している。

Photography (Portrait): Takayuki Adachi